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東京地方裁判所 昭和62年(特わ)750号 判決 1987年5月29日

本店所在地

東京都渋谷区幡ケ谷二丁目一六番一号

株式会社東京毛織

(右代表者代表取締役 川原真澄)

本籍

東京都世田谷区北沢二丁目一〇番

住居

同都同区北沢二丁目一〇番一五-一二〇八 藤和下北沢ハイタウン

会社役員

川原真澄

昭和二一年一〇月二四日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官寺尾淳出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社東京毛織を罰金五〇〇〇万円に、被告人川原真澄を懲役一年一〇月にそれぞれ処する。

被告人川原真澄に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用はその二分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人会社は東京都渋谷区幡ケ谷二丁目一六番一号に本店を置き(昭和六一年七月二一日変更前の本店所在地は同都八王子市清川町二〇番地の七)、洋装品、洋装雑貨の製造卸販売等を目的とする資本金一〇〇〇万円(同五七年五月一日変更前の資本金は五〇〇万円)の株式会社であり、被告人川原は被告人会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人川原は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上を除外するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和五七年三月一日から同五八年二月二八日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一億二六三四万二七四七円あった(別紙(一)昭和五八年二月期の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年四月二八日、東京都八王子市子安町四丁目四番九号所在の所轄八王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一一〇二万六六四四円でこれに対する法人税額が三六七万九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六二年押第四八九号の3)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額五二一〇万三六〇〇円と右申告税額との差額四八四三万二七〇〇円(別紙(四)脱税額計算書参照)を免れ

第二  同五八年三月一日から同五九年二月二九日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一億三六五五万六八九三円あった(別紙(二)昭和五九年二月期の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五九年四月二六日、前記八王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八五万二九七五円でこれに対する法人税額が一〇万五六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額五六二四万三五〇〇円と右申告税額との差額五六一三万七九〇〇円(別紙(五)脱税額計算書参照)を免れ

第三  同五九年三月一日から同六〇年二月二八日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一億八〇五七万四六八五円あった(別紙(三)昭和六〇年二月期の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同六〇年四月二五日、前記八王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六〇二万七二八九円でこれに対する法人税額が一六三万七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額七六九六万六九〇〇円と右申告税額との差額七五三三万六二〇〇円(別紙(六)脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人会社代表者兼被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書

一  川久保八千子の検察官に対する供述調書

一  収税官吏の杉本當正に対する質問てん末書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  商製品総売上高調査書

2  売上値引戻り高調査書

3  期首商製品棚卸高調査書

4  商製品総仕入高調査書

5  期末商製品棚卸高調査書

6  販売員旅費調査書

7  接待交際費調査書

8  雑費調査書

9  企画研究費調査書

10  デザイン料調査書

11  事業税認定損調査書

12  受取利息調査書

13  債権償還益調査書

一  登記官作成の各商業登記簿謄本

一  検察事務官作成の「報告書」と題する書面

一  検察事務官作成の電話聴取書

判示第一及び第二の事実について

一  収税官吏作成の価格変動準備金戻入調査書

判示第一の事実について

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  商品評価損調査書

2  価格変動準備金繰入調査書

3  棚卸計上洩れ認容調査書

4  前期損益修正益調査書

5  減価償却超過額の当期認容額調査書

一  押収してある昭和五八年二月期法人税確定申告書一袋(昭和六二年押第四八九号の3)

判示第二の事実について

一  押収してある昭和五九年二月期法人税確定申告書一袋(前同押号の2)

判示第三の事実について

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  受取配当金調査書

2  雑収入調査書

3  有価証券売買損調査書

一  押収してある昭和六〇年二月期法人税確定申告書一袋(前同押号の1)

(法令の適用)

被告人川原の判示各所為は法人税法一五九条一項に各該当するので、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年一〇月に処し、また、同被告人の判示各所為は被告人会社の業務に関してなされたものであるから、被告人会社に対しては法人税法一六四条一項により判示各罪につき同法一五九条一項の罰金刑を料し、その額についてはいずれも情状により同条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により判示各罪の右罰金の合算額の範囲内で被告人会社を罰金五〇〇〇万円に処し、被告人川原に対しては情状を考慮して刑法二五条一項によりこの裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文によりその二分の一ずつを各被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、主としてマフラーの製造、販売を業とする被告人会社が折からのマフラー流行の波に乗るなどして大儲けをすると、判示のとおり三事業年度にわたって合計一億八〇〇〇万円に近い巨額の法人税を免れたという事案であって、右脱税のほ脱率も平均九十数パーセントを超えるという高率であり、その動機も、被告人会社の運転資金の確保及び事業拡張資金の捻出を目的としたにすぎないのであって、格別斟酌すべき点などはなく、その手口たるや、あらかじめ特定の得意先一〇数社を選んではこれに対する売上額を全て簿外にするという大胆なものであり、これらの諸点からすると、被告人会社及びその業務を統括していた被告人川原の刑責は重いと言わざるを得ないが、他方、被告人会社は、その後修正申告の上、本件に関する本税、重加算税等を納付していること(但し、その一部については約束手形で納付し、未だ支払期日は到来していないが、被告人会社代表者は必ずこれを決済する旨当公判廷で約している。)、被告人川原においては税務当局の調査の段階から率直に本件各犯行を認める供述をするなどその非を深く反省、悔悟していること、同被告人には前科、前歴が全くないことなどの諸事情も認められ、その他、同被告人の家庭環境等本件全証拠から推認される各被告人のため酌むべき一切の情状を考慮し、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 反町宏 裁判官 髙麗邦彦 裁判官 平木正洋)

別紙(一)

修正損益計算書

株式会社 東京毛織

自 昭和57年3月1日

至 昭和58年2月28日

<省略>

別紙(二)

修正損益計算書

株式会社 東京毛織

自 昭和58年3月1日

至 昭和59年2月29日

<省略>

別紙(三)

修正損益計算書

株式会社 東京毛織

自 昭和59年3月1日

至 昭和60年2月28日

<省略>

別紙(四)

脱税額計算書

株式会社東京毛織

自 昭和57年3月1日

至 昭和58年2月28日

<省略>

別紙(五)

脱税額計算書

株式会社東京毛織

自 昭和58年3月1日

至 昭和59年2月29日

<省略>

別紙(六)

脱税額計算書

株式会社東京毛織

自 昭和59年3月1日

至 昭和60年2月28日

<省略>

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